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店主インタビュー

眼鏡の心地よさにこだわり、大切なひとりひとりの「視る」を支えつづける

一八八二年創業のよしかわや眼鏡舗(旧 メガネの吉川屋)は、長年にわたり岡崎城下で人々の「視る」を支えつづけてきた。
一対一での予約制による丁寧な視力測定と豊富な商品知識によって「見え心地」と「かけ心地」を提案するスタイルは、その歴史と自負そのものだ。
「眼鏡は視力を矯正するための器具」と話してくれたのは、五代目の平岩哲朗さん。
今回、創業一四〇年を目前にして、よしかわや眼鏡舗がこれまで歩んできた道、ご自身の眼鏡へのこだわり、ブランド999.9(フォーナインズ)と弱視の子ども向け眼鏡に注力する思い、今後の展望について話を聞いた。

舶来品の取扱いから始まった「吉川屋」

―創業当時から今日まで、よしかわや眼鏡舗さんが歩んできた道のりについて教えてください。

平岩 一八八二年、初代の平岩喜七が現在の店舗からもう少し北の能見町というところで創業しました。はじめは眼鏡だけではなくて、櫛、かんざしといった装身具やパイプなどの喫煙具などを販売していたそうです。いわゆる「舶来品」と呼ばれていた輸入雑貨ですね。当時から「吉川屋」を名乗っています。二代目になって、旧東海道沿いに店を移転したそうです。主に眼鏡を取り扱うようになったのは、この頃からだと聞いています。三代目にあたる僕の祖父が名古屋で眼鏡の修業に出て戻ったときから眼鏡専門店になったそうです。残念ながら、この時代までの資料は、戦争ですべて燃えてしまって残っていません。戦後、今の国道一号沿いに店を移して、現在に至っています。


―現在の場所にお店を構えてから、すでに七〇年以上経っているわけですね。初代から名乗っている「吉川屋」には、どのような由来があるのですか?

平岩 実は、子どもの頃から、友だちに「なんで吉川屋さんなの?」とよく聞かれました。でも、父に聞いても分からない。店舗の由来は、僕が一番知りたいミステリーです(笑) タイムトラベルができるなら、聞きに行きたいですね。ただ、店名は「メガネの吉川屋」と「吉川屋眼鏡舗」の二つを併用してきたことは分かっています。おそらく、現代のアルファベットのような感覚で、時代の先端をイメージするカタカナの「メガネ」も使っていたのでしょう。


―平岩さんが幼い頃に見た「メガネの吉川屋」で、印象に残っていることはありますか。

平岩 父が仕事をしているところはたびたび見ていました。その内容は分かりませんでしたが、お客様が来ると一時間はかかりきりになっていたことはよく覚えています。その頃から一対一の対面スタイルはずっと変わっていません。お客様は地元の方で、眼科で書いてもらった処方箋をもって来店されることがほとんどだったと聞いています。

老舗眼鏡店の息子、フォーナインズに出会う

―平岩さんご自身が、お店を継ぐまでの経緯についてお聞きします。幼い頃から、お父さんの仕事ぶりに関心があったようですが、当時から次は自分が継ぐという思いはあったのでしょうか。

平岩 わりと思っていましたね。母方の祖母には、僕が次にお店を継ぐんだということをよく言われていました。だから、いずれは継ぐのかなと意識はしていましたね。でも、まずは周りの皆と同じように大学へ行ってみたいという気持ちもあって、大学進学を選びました。眼鏡のことにちゃんと向き合ったのは、大学を卒業してからです。名古屋の専門学校で二年間、眼鏡調製の技術をみっちり学びました。そして、家業を継ぐ前に、ほかの眼鏡店の経験を積みたくて就職を希望しました。


―その就職先が、フォーナインズだった。

平岩 はい。「モノマガジン」という雑誌に当時、999.9(フォーナインズ)の特集が組まれていたのです。フォーナインズは、一九九五年に発売されてから、わずか十年足らずのうちに東京ですごく流行っていたので、どんな眼鏡なのか興味がわいたんです。僕が二三歳のときです。縁あってフォーナインズへ就職できて、銀座、渋谷、新宿、二子玉川といった店舗で働き、五年半の修業を積みました。


―雑誌の特集でフォーナインズに出会ったことは、大きな転機だったのですね。その後、二〇一〇年に岡崎に戻って、家業を継いでフォーナインズの商品を取り扱い始めた。このブランドの魅力を一言で表すとどんなところでしょうか。

平岩 圧倒的に「かけ心地」にこだわっているブランド、その一点ですね。眼鏡のかけ心地をよくするには、その人の顔に合わせるフィッティング技術と調整可能なフレームが不可欠です。それを前提に作られていることが最大の魅力です。

「かけ心地」へのこだわり

―フォーナインズの「かけ心地」に、平岩さん自身がこだわる理由は何でしょうか。

平岩 「眼鏡は視力矯正器具である」ということに尽きるかなと思います。これは、子どもの頃から見てきた父の仕事ぶりや専門学校や就職先での学びと経験からたどりついた結論です。フォーナインズのコンセプトである「かけ心地」は僕がやりたいことの一つにぴったり合っている。ブランドが変わらない限り、僕も同じことをやっていこう、と。何より、培ってきた経験を生かしてお客様へ話せることが強みです。


―たしかに、知識や経験に裏づけられた提案には説得力がありますね。

平岩 実をいうと、僕自身は十代のころまで、眼鏡をまったく必要としていませんでした。サングラスは好きで、二十歳のころからかけていましたね。でも、よくよく調べてみると、近視はなかったけれど強めの乱視があった。これは三十代になって分かったことです。だから、今かけている眼鏡には乱視の矯正をしています。
これまで裸眼で見ていたものが「普通の世界」だと思い込んでいましたが、矯正することで「より良く見える世界」を知ることができた。これは、お店に来てくださるお客様の気持ちに寄り添える経験だと思っています。
繰り返しになりますが、眼鏡ってファッション的な要素もありますが、一番は「視力矯正器具である」ということ。間違った度数の眼鏡をかけていれば、体に良くないし、健康に不具合が出ることも考えられます。お客様に対してよりよいものを提供しなければならないという責任は常に感じています。

ポジションは「眼鏡店以上、眼科医未満」

―責任という点では、丁寧で細やかな視力測定の技術も大きく関係してきますね。平岩さんが視力の測定にかける時間は少なくとも三十分、これは一般的な眼鏡店の二倍以上だとお聞きしました。

平岩 お客様にも、「こんなにしっかり測ってもらったことないわ」ってよく言われますね(笑) 単に時間をかけて多くの項目を測定するだけではダメで、測定結果をもとに調整した眼鏡がその人に合って初めて、その責任を果たせると思っています。


―平岩さんの測定は、どんなところが他社と違うとお考えですか。

平岩 ひとつには、視線のずれを測定するところでしょうか。多くの量販店さんでは、そこまで測らないと思います。もちろん、視力が良くない人すべてに視線のずれがあるわけではありません。それに、直したほうがいいケースもあれば、そのままで問題ないケースもある。その判断は測らないと分からないものです。


―なるほど。すべてを矯正するわけではないんですね。

平岩 そうですね。この先もよりよく「視る」ために、現時点では少し違和感のある矯正を提案することもあります。将来も見据えて未矯正の部分を調整することで、もっと楽な状態で目をうまく使える、目のポテンシャルを引き出せると思っています。それが、お客様の生活の質や仕事の効率の向上につながることを目指したいですね。


―眼鏡を販売する一方で、適切な診断をもとにカウンセリングや提案をするお医者さんみたいな一面もあるわけですね。

平岩 眼鏡業界には「半医半商」という言葉があります。僕個人は、医師に重ねることに遠慮がありますが、よりよく見えるようになってほしいという気持ちでお客様と常に向き合っています。普段の生活で「視る」ことから得られる情報量は全体の八割といわれています。ここが変わると生活は大きく変わるのは間違いありません。

成長しつづける子どもの目を見守る責任

―もうひとつ、平岩さんが大切にしている柱が「こどもめがね」ですね。成長段階にあるお子様の眼のことは、親御さんも心配が尽きないと思います。お子様の弱視の矯正には、どのように携わっているのでしょうか。

平岩 弱視の子は、眼鏡で矯正しないと、その先の視力が伸びない可能性があります。その子にとって眼鏡は将来を左右しかねない、とても大切なものなんです。そこに携わるのは責任重大ですし、同時に僕のやりがいにもつながっています。うちでお作りした眼鏡をかけて、視力がしっかり発達するように、お子様の未来を誠心誠意サポートしていきたいと思っています。


―平岩さんご自身も子育ての真っ最中ですから、親心もよくお分かりですね。

平岩 はい。こんなふうに見えて、実は子どもたちと触れ合うのは好きですね(笑) うちも息子が二人いて、日々の成長を感じながら賑やかな毎日を送っています。そして、僕も親だからこそ、子育て真っ最中の親御さんの眼のこともサポートしたいと考えています。抱っこした子どもにフレームを引っ張られて、ゆがんだままの眼鏡を掛けているとか、もう何年も自分の眼鏡は買い替えていないとか、来店されたときにそのような相談をされる方もいます。お子様の眼鏡だけでなく、ご家族の眼のことも気軽に聞いてもらえる存在でいたいですね。

地元で「視る」を支えつづけたい

―眼鏡を通して、より良く「視る」ということを一途に追及し、真面目に取り組んでいる平岩さんの思いがよく分かりました。

平岩 よく真面目だと言われるのですが、僕自身は真面目なのかどうかよく分かりません(笑) でも、今まで培ってきたことには、誠実に向き合いたいですし、お客様に嘘をつくことはしたくない。それは、吉川屋が約一四〇年続いてきた信頼の証でもあるし、これまで僕がやってきたことへの誇りでもあると思っています。


―最後に、これからも続けていきたいこと、今後やってみたいことなどがありましたら教えてください。 

平岩  地元で店を構えていますので、地域とのつながりや友人との間で「眼鏡店をやっている」という話になると、「近視が進んだ」「最近、字が見づらくなって」という反応が返ってくることが多いんです。皆さん、それだけご自身の眼のことが気になってるんだなと感じます。
ただ、一人一人違う眼の状態に対して、測定をしないと適切なアドバイスはできないんです。「今の眼鏡は四~五年前に遠近両用で作ったはずなのに見づらくなった」とおっしゃる方もいます。それは、四~五年が経てば眼の度数は変わるからで、眼鏡士からすれば見づらいのは当然のことなのです。
僕が勝手に「眼鏡リテラシー」なんて言ってますが、つまり眼や眼鏡に対する理解や判断力を皆さんに高めてもらい、上手に眼鏡を使いこなしてもらいたいなと思っています。近年、視力矯正法は、眼鏡以外にもコンタクトレンズをはじめ、オルソケラトロジー(※1)やICL(※2)といった技術発展も目覚ましいです。とはいえ、眼鏡がそれらに取って代わることはまだまだないでしょう。
僕は、これからも地元の岡崎で、一切、手を抜くことなく、大切なひとりひとりの「視る」を支えつづけたい、そう思っています。

※1 夜間に装用して角膜中央部をフラット化させ、近視を矯正するコンタクトレンズ。
※2 眼内コンタクトレンズ。角膜を削らずにレンズを目の中に入れて視力矯正する。

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